交通事故における損害賠償請求の内容とは

交通事故・損害賠償請求の内容とは

大多数の方は、交通事故に遭うことは、初めてのことと思います。

そのため、被害者である自分が、加害者や加害者損害保険会社に、
「”なにを””どれだけ”請求できるか」は、ご存知ないかもしれません。

ましてや、「○○ジャパン」や「東京○○日動」などの、有名保険会社から、

「こちらの損害賠償額をお支払いたします」と言われてしまうと、
有名な損保会社であれば、被害者の補償もしっかりしてくれているはずだ」という、心理が働き、疑問を持たずに、示談書に判を押してしまうこともあるかもしれません。

そこで、まず交通事故に遭われた被害者側が、交通事故賠償について、最低限把握しておかなければならいと考えます。

下記の損害賠償額計算書をご覧になり、交通事故賠償請求の全体像を確認してみてください。

平成○○年○○月○○日

損害賠償額計算書

○○ ○○ 様

○○日動ジャパン

事故日    平成○○年○○月○○日

治療期間 自 平成○○年○○月○○日        治療期間  ○○○日

     至 平成○○年○○月○○日        実通院日数 ○○日

損害項目 算定額 備考
治療費    
付添看護料    
入院雑費    
通院交通費    
装具・器具などの購入費    
診断書などの取得費用    
文書取得料    
休業損害    
入通院慰謝料    
傷害部分小計    
後遺障害慰謝料    
後遺障害逸失利益    
後遺障害部分小計    
合計    
過失割合  
損害賠償額    
既払額  
支払請求額    

治療費について

原則として、交通事故の被害に遭ったことによって、病院等で支出した各種費用は、加害者側に請求することができます。

請求項目 必要かつ相当な実費
具体的な請求項目 ・初診料
・診察料
・護送料
・応急手当料
・投薬料
・手術料
・処置料
・入院料
・柔道整復師による施術料
請求できない項目 【過剰診療となる場合】
診療行為の医学的な必要性と合理性が否定されるものをいいます。
【高額診療となる場合】
診療行為に対する報酬が、社会一般の診療水準と比較して、著しく高額な場合をいいます。

予備知識

予備知識① 柔道整復師の施術料について

柔道整復料が認められる場合の、要件は2点とお考えください。

  1. 主治医の指示があること
  2. 柔道整復(鍼灸などを含む)による施術効果が認められること

となります。

接骨院などの施術を受ける場合は、「主治医の指示または了解を得ること」が、一番安心な方法です。

接骨院の先生は、後遺障害診断書の作成をすることができません。「治療は接骨院で、後遺障害診断書は医師」という、患者本位の態度では、医師の印象を悪くし、詳細な後遺障害診断書の作成は期待できません。

したがって、定期的な整形外科への通院をし、仕事や学業などの都合で、病院への通院が困難な場合は、医師の了解を得て、接骨院への併用通院をしましょう。

どのような場合でも、最低限月に1~2回は、整形外科へ行き、医師とのコミュニケーションは図るべきと考えます。

予備知識② 症状固定後の治療費について

原則としては、症状固定後の治療費については、請求することはできません。

しかし、その支出が相当なときは、認められます。

《症状固定後の治療費を認めた裁判例》

名古屋地裁
平成2.7.25
右大腿部切断の症状固定後に、義足を作成するための通院、その後の再入院、通院をした場合の治療を認めた。
浦和地裁
平成7.12.26
下半身麻痺による介護リハビリ費用として、24万円余を認めた。
神戸地裁
平成10.10.8
肩関節、頚部の運動制限や疼痛などを、後遺障害12級と認定し、症状固定後1年3ヶ月の治療費につき、改善は期待できないまでも、保存療法としては、必要であったと推定されるとして、事故との因果関係を認めた。

付添看護料について

まず、どのような費用を請求できるのか、表で確認していきましょう。

付添看護料は、自賠責保険基準と裁判基準でその金額が変わります。

態様 損害項目 自賠責保険基準 裁判基準
入院の場合 入院中の職業付添看護人 実費全額 実費全額
入院中の近親者の付添看護人 4100円/一日 6500円/一日
通院の場合 自宅看護料又は通院看護料 2050円/一日 3300円/一日

上記の裁判基準の金額は、裁判ごとに金額の変動があります。それは、被害者の年齢・性別・障害の程度・家族状況など個別的に判断がなされるからです。

付添看護料が認められるのは、そのほとんどが、高次脳機能障害などの重度の後遺障害が残り、継続的な介護が必要となった場合です。

しかし、腰痛・吐き気などで後遺障害等級12級の被害者にも付添看護料を認めた裁判例があります。

横浜地裁
平成19.6.28
腰痛・吐き気など(12級)の主婦兼会社員について、自宅療養であっても、付添看護の必要性を認める医師の診断があったことから、約2年間の自宅療養期間について、304日間は、近親者付添日額5000円を、271日間は職業付添日額6500円、合計328万円余を認めた。

通院看護料については、通院のために近親者(父親又は母親)が欠勤した場合などは、損害として認められます。

神戸地裁
平成17.12.20
右足関節外側靱帯損傷(14級10号)などにより、整形外科、心療内科などに、4ヵ月半で21回通院した女児(症状固定時6歳)について、日額3300円を認めた。

入院雑費について

入院雑費についても、自賠責保険基準と裁判基準とで、金額が異なります。

基準 金額
自賠責保険基準 1100円/一日
裁判基準 1500円/一日

算定式は、

入院雑費

=入院日数×定められている金額(1100円または1500円)

例.入院日数30日の場合

自賠責保険基準の場合 30日×1100円=3万3000円
裁判基準 30日×1500円=4万5000円

となります。

通院交通費について

具体的には、以下をご参照ください。

移動手段 支払基準
バス バス料金実費相当額
電車 電車料金実費相当額
自家用車 ガソリン代などの実費相当額(実務的には、15円/kmで算出するようです)
タクシー タクシー利用が相当と認められる場合は、実費相当額

なお、介護のための近親者の交通費も損害として認められます。

予備知識

予備知識① タクシーによる通院交通費を認めた裁判例

大阪地裁
平成7.3.22
病院への通院は、公共交通機関を利用とすれば、自宅から1時間かけて徒歩で駅まで出なければならず、タクシー利用はやむを得なかったとして、タクシーによる通院費235万円余を認めた。
神戸地裁
平成13.12.14
事故により対人恐怖、外出困難などの症状が生じた専門学校生につき、タクシーを利用した場合に、原告の主張どおり、実通院日数の約6割分、合計22万円余を認めた。

予備知識② 付添人の交通費を認めた裁判例

神戸地裁
平成13.12.4
妻による通院付添いのための交通費として、419日分、合計59万円余を認めた。

装具・器具などの購入費について

必要かつ妥当な、装具・器具の購入費と交換費が認められます。

具体的には、以下をご参照ください。

義歯 頚椎装具
義眼 コルセット
義手 サポーター
義足 折りたたみ式スロープ
眼鏡(5万円の範囲内) 歩行訓練機
コンタクトレンズ リハビリ用平行棒
歩行補助器具 歯・口腔清掃器具
車イス(手動・電動・入浴用) 身体洗浄機
盲導犬費用 洗髪機
ポータブルトイレ 介護用浴槽
電動ベッド 吸引機
ギプスヘッド 入浴用イス
水洗トイレ付きベッド 体位変換機
介護支援ベッド 入浴担架
エアマットリース代 障害者用はし
リハビリシューズ 脊髄刺激装具
エキスパンダー 義足カバー

※ 相当の期間で交換の必要があるものについては、「将来の費用」も原則として認める。

診断書などの取得費用について

診断書を取得するための、「発行手数料」について、必要かつ妥当な実費が損害として認められます。

具体的に、以下の実費が損害として認められて、請求することができます。

  • 診断書などの発行手数料
  • 診療報酬明細書などの発行手数料

予備知識

専門家に依頼した鑑定費用などを損害として認めた裁判例

横浜地裁
平成5.9.2
後遺障害立証のための鑑定料と検査料
東京地裁八王子支部
平成10.9.21
センターラインオーバーが争点となった事故態様の解明のため、事故状況交通事故工学の専門家に、スリップ痕の位置特定写真及び測量の専門家に、それぞれ私的に依頼した鑑定費用200万円余を認めた。
大阪高裁
平成21.9.11
高次脳機能障害(5級2号)、脊柱変形(11級7号)、下肢短縮(13級9号、併合4級)の主婦について、保佐開始申立費用として、鑑定料10万円、登記印紙代4000円、申立手数料800円、合計10万円余を認めた。

文書取得料について

文書取得料については、その「発行手数料」が、損害として「必要かつ妥当な実費」が、損害として認められ支払われます。

具体的には、以下をご参照ください。

  • 交通事故証明書の発行手数料
  • 印鑑証明書の発行手数料
  • 住民票の発行手数料

などです。

休業損害について

一.休業損害総論

交通事故で負傷した人が、入院・通院期間中に、仕事を休んだために収入が減少することがあります。こうした場合、被害者は、仕事を休んだ間の減収分を加害者に請求することができます。

この休業期間中の減収分を、「休業損害」といいます。

休業損害を請求できない場合

A.減収がない場合 休業中でも、事故前と同様に給料が支給されていた場合
B.労災保険の適用があった場合 労災保険から給料の6割を支給されていた場合 =差額分の4割についてのみ、請求できます。

※ 注意 ※

A.サラリーマンが有給休暇を利用した場合
B.被害者が専業主婦の場合
C.被害者が就職活動中の場合

などは、直接的な減収がなくても、休業損害を請求できます。

なお、自賠責保険においては、日額5700円(定額)を下回る場合は、=5700円が認められます。

日額5700円を上回る場合は、1万9000円を限度として、実額が認められます。

二.休業損害支払対象者

分類 概要
給与所得者の方(会社員など) ・事故前の収入を基礎として、受傷によって休業したことによる現実の収入減が、損害となります。
・休業中に、昇給。昇格があった後は、昇給等の後の収入を基礎として算出します。
・休業に伴う、賞与の減額。不支給・昇給等の遅延も損害として認められます。
事業所得者(個人事業主など) ・現実の収入減があった場合に、認められます。
・固定費(事務所家賃、従業員給与など)の支出は、事業の維持・存続のため、必要やむを得ないものは、損害として認められます。
家事従事者(主婦など) 受傷のために家事労働に従事できなかった期間につき、認められます(最高裁昭50.7.8)。
パートタイマーなどの「兼業主婦」については、
A.現実の収入額 B.女性労働者の平均賃金額
いずれか「高い額」を基礎として算出します。
学生 ・原則、休業損害は認められません。例外的に、アルバイトなどの収入があれば、認められます。
・事故により、「就職が遅れた」場合、休業損害として認められます。
無職者 ・原則として、休業損害は認められません。
・ただし、労働能力と労働意欲があり、就労の可能性が高い方は、認められる可能性があります。

三.休業損害算定方法

分類 算定式
給与所得者 (事故前3ヶ月間の総収入÷90日)×休業日数
事業所得者 (前年度確定申告所得額÷365日)休業日数
家事従事者 【専業主婦の場合】
(賃金センサスの女子労働者平均賃金額÷365日)×休業日数
【兼業主婦(会社員)の場合】
(事故前3ヶ月間の総収入÷90日)×休業日数
【兼業主婦(個人事業主など)の場合】
(前年度確定申告所得額÷365日)休業日数
学生など 【アルバイト収入がある学生の場合】
アルバイト収入を基礎として、休業損害を計算します。
《裁判例》
アルバイトを退職して、休業中の被害者について、退職した翌日に事故にあったことなどの事情から、退所前のアルバイト収入を基礎として算定した(大阪地裁平成10.2.3)
【事故により卒業・就職が遅れた場合】
就職すれば、得られたであろう収入を基礎として、休業損害を計算します。
《裁判例》
就職が内定していた修士課程後期学生について、事故により就職内定が取り消され、症状固定まで就業できなかった場合に、就職予定日から症状固定までの2年6ヶ月余の間、就職内定先からの回答による給与推定額を基礎に、955万円認めた(名古屋地裁平成14.9.20)。
無職者 《裁判例》
離職して積極的に就職先を探していたアルバイト中の被害者について、事故前年の給与収入額596万円余を基礎に、症状固定までの232日から職を得られるまでの相当期間90日を控除した142日分、232万円余を認めた。

予備知識

基礎収入・年収の証明に必要な書類一覧

休業損害、後遺障害の場合の逸失利益を算定する場合の、「基礎となる収入・年収の証明」は、大変重要となります。

収入に必要な書類は、以下の表をご参照ください。

分類 必要書類
給与所得者 A.休業損害証明書
B.源泉徴収票
C.賃金台帳 など
事業所得者 A.確定申告書控え
B.職業証明書 など
家事従事者 住民票 など
アルバイト・パートタイマーなど A.休業損害証明書
B.源泉徴収票
C.賃金台帳
D.所得証明書
E.確定申告書控え など

入通院慰謝料について

一.自賠責保険基準と裁判基準の違い

自賠責保険基準と裁判基準とでは、入通院慰謝料の算定の仕方が異なります。

入通院慰謝料の算定方法の別

自賠責保険基準 4300円×対象となる日数
裁判基準 裁判基準による入通院慰謝料による

二.ケーススタディ

下記の交通事故の被害者(以下、「Aさん」といいます。)想定して、A.自賠責保険基準における入通院慰謝料とB.裁判基準による入通院慰謝料を算定してみます。

被害者 35歳会社員
傷病名 右前腕骨骨折
入院期間 30日
通院期間 120日
実通院日数 60日

自賠責保険基準による入通院慰謝料の算定

まず、入通院慰謝料の算定する際の、「対象となる日数」を算出していきましょう。

算定の仕方は、以下のようになります。

対象となる日数は、
a.「総治療日数」=入院日数+通院期間 と
b.「実通院日数」=(入院日数+実通院日数)×2に相当する日数
を比較して、「少ないほう」を採用します。

Aさんにおいては、

総治療日数 入院日数30日+通院期間120日=150日
実通院日数 (入院日数30+実通院日数60日)×2=180日

となります。

Aさんの場合は、総治療日数の150日を採用します。

よって、150日に4300円をかけると、

4300円×150日=64万5000円となります。

裁判基準による入通院慰謝料の算定

まず、以下の入通院慰謝料表をご覧ください。

【裁判基準による入通院慰謝料表】

裁判基準の入通院慰謝料は、以下の算定式を用いて、算出します。

a’入院慰謝料

b’通院慰謝料(総治療期間の通院慰謝料額-入院期間分の通院慰謝料額)

※ なぜ、[総治療期間の通院慰謝料額]から[入院期間分の通院慰謝料額]を控除するのか、というと、”「慰謝料」の二重請求を回避するため “とお考えください。

それでは、実際に算定してみましょう。

まず、a’の入院慰謝料については、Aさんの入院期間は「30日」ですから、上記の表の「入院のみ1月」を見ますと、53万円となります。したがって、

入院慰謝料 53万円

次に、b’の通院慰謝料です。はじめに、総治療期間の通院慰謝料を算定します。

総治療期間は、入院期間30日と通院期間120日合算した「150日」となります。150日は、150日÷30日で、「5ヶ月」となります。

上記の表「通院のみ5月」を見ますと、Aさんの、総治療期間の入通院慰謝料は、「105万円」となります。

次に、入院期間分の通院慰謝料の算定をします。

Aさんの入院期間は、30日(1ヶ月)ですから、上記の表の「通院のみ1月」を見ますと、28万円です。したがって、Aさんの入院期間分の通院慰謝料は、「28万円」となります。

整理をしますと、

総治療期間の通院慰謝料 105万円
入院期間分の通院慰謝料 28万円
通院慰謝料 105万円 −28万円 = 77万円

以上のことから、

裁判基準の入通院慰謝料
a’入院慰謝料 53万円
b’通院慰謝料 77万円
入通院慰謝料 53万円+77万円=130万円

となります。

算定額の比較

最後に、A.自賠責保険基準の入通院慰謝料とB.裁判基準の入通院慰謝料を比較します。

算定基準 算定式 算定額
A.自賠責保険基準 4300円×150日 64万5000円
B.裁判基準 入院慰謝料53万円+通院慰謝料77万円 130万円
AとBの比較 B.130万円−A.63万円 67万

後遺障害慰謝料について

後遺障害慰謝料については、後遺障害等級ごとに、「自賠責保険基準は定額化」、「裁判基準においては基準化」されています。

以下の、表のご参照ください。

後遺障害慰謝料表

後遺障害等級 自賠責保険基準 裁判基準
1級 1600万円(要介護の場合) 2800万円
1100万円(要介護以外の場合)
2級 1163万円(要介護の場合) 2370万円
958万円(要介護以外の場合)
3級 829万円 1990万円
4級 712万円 1670万円
5級 599万円 1400万円
6級 498万円 1180万円
7級 409万円 1000万円
8級 324万円 830万円
9級 245万円 690万円
10級 187万円 550万円
11級 135万円 420万円
12級 93万円 290万円
13級 57万円 180万円
14級 32万円 110万円

予備知識

上記の裁判基準の後遺障害慰謝料は、一定の基準であって、裁判では、被害者の年齢、職業、障害の部位・程度によって、個別的に金額が決定されます。

12級の事例 東京地裁
平成16.12.1
右薬指障害12級のアルバイトについて、40歳を過ぎながらも一念発起して、将来音楽で生計を立てることを目指し、低収入に甘んじながらベースの練習に励んでいたとして、350万円を認めた。
14級の事例 東京地裁
平成16.2.27
膝関節と頚椎の神経症状(各14級、併合14級)を残す会社員について、
①事故が退職に原因を与えたことは否定できないこと
②被害者に落ち度はないこと
③症状固定後も自己負担で接骨院に通院していたこと
④加害者の対応に誠実さを欠いていること
などを考慮して、250万円余を認めた。

後遺障害逸失利益について

後遺障害逸失利益は、以下の算定式により計算します。

後遺障害逸失利益

=年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

一.年収について

年収については、休業損害と同様に、「基礎収入の証明」が重要になってきます。

以下、表をご参照ください。

分類 基礎収入の根拠
給与所得者(会社員など) 事故前年の収入(年収)を基礎として、算出します。
事業所得者(個人事業主など) ・原則は、確定申告所得額を基礎にします。
・確定申告額と実収入額が異なる場合で、実収入額を証明できれば、実収入額が基礎収入額となります。
家事従事者 原則、賃金センサスの各平均賃金を基礎にします。
《兼業主婦(主夫)の場合》
A.平均賃金<実収入のとき=実収入を基礎とする
B.実収入<平均賃金のとき=賃金センサスの各平均賃金を基礎とする
学生など 賃金センサスの各平均賃金を基礎とする。
失業者 A.賃金センサスによる各平均賃金を基礎とする場合
B.再就職先で得られるであろう収入を基礎とする場合
C.失業前の職場の収入を基礎とする場合などがある。
高齢者 賃金センサスの各平均賃金が認められうる。 

二.労働労力喪失率について

労働能力喪失率については、自動車損害賠償保障法施行令別表というもので、後遺障害等級ごとに基準が定められています。以下の、表をご参照ください。

後遺障害等級 労働能力喪失率 後遺障害等級 労働能力喪失率
1級 100% 8級 45%
2級 100% 9級 35%
3級 100% 10級 27%
4級 92% 11級 20%
5級 79% 12級 14%
6級 67% 13級 9%
7級 56% 14級 5%

これは、あくまで基準で、裁判となれば、被害者の年齢、収入、職業などにより、個別的に検討され、労働能力喪失率が検討されます。

参考裁判例

甲府地裁
平成17.10.12
眼科医の頚部痛、後頭部痛、眼精疲労、左手振戦(14級10号)について、左手の振戦のため手術ができなくなり、研究職に転向せざるを得ず、従前のアルバイト収入が得られなくなったことから、事故前年の年収1130万円余を基礎に、10年間12%の労働能力喪失を認めた。

三.労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数について

具体例で考えてみます。下記のような被害者(以下、「Xさん」といいます。)が、いらっしゃたとします。

事故日 平成○○年4月1日
職業 会社員
年収 400万円
事故当時の年齢 30歳
症状固定時の年齢 31歳
診断名 高次脳機能障害
後遺障害等級 5級2号

結論から申し上げれば、Xさんの労働能力喪失期間は、「36年」となります。

原則として、労働能力喪失期間の算出の仕方は、

67歳(就労可能年数)-症状固定時の年齢

となります。したがって、67歳−31歳=36歳(年)となります。

この労働能力喪失期間がわかったら、次は、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を算出します。

以下の表をご参照ください。

ライプニッツ係数表

期間(年) 係数 期間(年) 係数
0.9524 35 16.3742
1.8594 36 16.5469
2.7232 37 16.7113
3.5460 38 16.8679
4.3295 39 17.0170
5.0757 40 17.1591
5.7864 41 17.2944
6.4632 42 17.4232
7.1078 43 17.5459
10 7.7217 44 17.6628
11 8.3064 45 17.7741
12 8.8633 46 17.8801
13 9.3936 47 17.9810
14 9.8986 48 18.0772
15 10.3797 49 18.1687
16 10.8378 50 18.2559
17 11.2741 51 18.3390
18 11.6896 52 18.4181
19 12.0853 53 18.4934
20 12.4622 54 18.5651
21 12.8212 55 18.6335
22 13.1630 56 18.6985
23 13.4886 57 18.7605
24 13.7986 58 18.8195
25 14.0939 59 18.8758
26 14.3752 60 18.9293
27 14.6430 61 18.9803
28 14.8981 62 19.0288
29 15.1411 63 19.0751
30 15.3725 64 19.1191
31 15.5928 65 19.1611
32 15.8027 66 19.2010
33 16.0025 67 19.2391
34 16.1929    

上の表において、Xさんの労働能力喪失期間である「36年」に対応するのは、「16.5469」となります。

これで、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は、算出できました。

ここで、注意点は、「むち打ち症」の場合は、労働能力喪失期間は、就労可能年数まで認められることは、原則としてありません。

むち打ち症の場合の、労働能力喪失期間・ライプニッツ係数を一覧にまとめたので、ご参照ください。

後遺障害等級 労働能力喪失期間 ライプニッツ係数
12級 10年 7.7127
14級 5年 4.3295

後遺障害逸失利益の算定

では、Xさんの後遺障害逸失利益を算定してみましょう。

Xさんの年収、労働能力喪失率、ライプニッツ係数は、

年収 400万円
労働能力喪失率 5級2号(79%)
ライプニッツ係数 16.5469

したがって、400万円×0.79×16.5469

5228万8204円となります。

過失相殺について

一.過失相殺総論

まず、過失とは?

一般的には、「自分の行為から一定の結果が発生することを認識できたのに、不注意でそれを認識しないこと」と定義されています。

つまり、交通事故の当事者の運転上等の不注意、落ち度やミスと考えれば、理解しやすいと思います。

したがって、過失相殺とは、道路の運行に関する、加害者と被害者双方の不注意や落ち度を考慮して、お互いの損害賠償額を定めることです。

交通事故の場合における「過失」とは、自動車や自転車に関しては、「前方不注意」、「法定速度違反」、「居眠り運転」、「酒酔い、酒気帯び運転」や「運転中の携帯電話の使用」などがあります。

歩行者に関しては、「ふらふら歩き」、「横断禁止規制道路の横断」などがあります。

二.過失相殺の要件

過失相殺をするためには、「被害者」に「過失」があることが前提となります。

しかし、ここで問題となるのは、被害者の過失を認定する際に、被害者に「責任能力」が必要か否か、という点です。

以下、被害者の過失を認定する際に、問題となる能力について、表でまとめましたので、ご参照ください。

被害者の能力 要・不要 能力が備わる年齢 備考
責任能力 不要 12歳程度 責任能力とは、「注意をすればよくない結果が生じることが予想でき、その結果、自分がどのような責任を問われるのかを理解できる能力」定義されています。
事理弁識能力 7歳程度 事理弁識能力とは、「物事に対しての良し悪しを判断する知能がある場合をいうもの」と定義されています。

三.被害者の過失とは

過失相殺においては、被害者本人の過失のみならず、「被害者側」の過失をも対象にして検討します。

一般的に、「被害者側」に含まれるのは、定義上は、「身分上、生活上一体をなすとみられるような関係にある者」とされています。

具体的には、「被害者の父母、配偶者、親族(兄弟姉妹)、使用者」とされています。以下、表をご参照ください。

なお、保育士は、被害者側の過失には、含まれません。

分類 被害者側に含まれる根拠
父母 ①子供(幼児、児童など)の交通事故においては、父母は監督責任者であること
②父母と子供との間には、「身分上、生活上一体性」が認められること
配偶者 ・被害者と配偶者との間に、身分上、生活上の一体性が認められること
・内縁関係であっても、「身分上、生活上一体性が認められれば」、被害者側の過失に含まれます。
《例外》
①婚姻関係が破綻している
②身分上、生活上一体性が認められない
場合は、配偶者の過失は、被害者側の過失には含まれません。
親族 被害者と同居し、生計が同一である兄弟姉妹などは、身分上、生活上一体性が認められるので、被害者側の過失に認定されます。
使用者 使用者と被用者との間に、身分上、生活上一体性が認められ、被用者側の過失に認定されます。

四.過失相殺の方法

一般的には、治療費、休業損害、入通院慰謝料、逸失利益などの「全損害額の合計額」について、一括して過失相殺を行います。

以下の、AさんとBさんの具体例をご参照ください。

[当事者の情報]

当事者 事故時の状況 人身損害 物損損害 過失割合
Aさん 自家用車運転中 600万円 40万円 90%
Bさん 自家用車運転中 500万円 60万円 10%

まずは、人身損害について、過失割合に応じた負担の検討します。

したがって、人身損害についての双方の請求額は、

請求者 請求額
Aさん(Aさん→Bさんに請求) 60万円
Bさん(Bさん→Aさんに請求) 450万円

となります。

次に、物損損害についての過失割合に応じた負担の検討を行います。

物損損害についての双方の請求額は、

請求者 請求額
Aさん(Aさん→Bさんに請求) 4万円
Bさん(Bさん→Aさんに請求) 54万円

となります。

AさんとBさんの全損害賠償請求額は、以下の通りです。

請求者 請求額
Aさん(Aさん→Bさんに請求) 人身損害部分60万円+物損損害4万円=64万円
Bさん(Bさん→Aさんに請求) 人身損害部分450万円+物損損害部分54万円=504万円

既払額・損益相殺について

A.既払額について

既払額については、加害者又は加害者損保会社から、「既に支払ってもらった金額」が記載されます。損害賠償額の二重取りによって、被害者が過度に補償されることを防ぐ項目です。

既払額の主なものは、以下の通りです。

  • 治療費
  • 入院雑費
  • 通院交通費
  • 休業損害

これらの項目は、「後遺障害等級認定前」や「示談締結前」に、既に加害者や加害者損害保険会社から支払がなされている場合がありますので、その金額は、損害賠償額から控除されます。

B.損益相殺について

既払額の控除と同様に、二重利得の防止の観点から、「損益相殺」というものがあります。

損益相殺とは、被害者またはその相続人が、交通事故を原因として、「なんらかの利益を得た場合」、その利益分を損害賠償額から控除することです。

どのような利益が、損益相殺の対象となるのかは、以下をご参照ください。

損益相殺の対象となる利益供与

給付金 内容
・受領済みの自賠責保険金額
・政府保障事業による填補金
いずれも損害の填補を目的とするものであり、損益相殺の対象となります。
各種社会保険給付金 ・厚生年金保険法
・国民年金法
・各種共済組合法
・労働者災害補償保険法(労災保険)
・恩給法
・健康保険法
・国民健康保険法
などからの給付金は、損益相殺の対象となります。
所得補償保険特約に基づいて支払われた保険金 保険金を受け取った場合には、保険金相当額を休業損害の賠償額から控除するとしています。

損益相殺の対象にならない利益供与

給付金 内容
労災保険の特別給付金 ・休業特別支給金
・障害特別支給金
・障害特別年金
・遺族特別年金
については、被災労働者の福祉増進を目的としていて、代位取得の規定がないことから、損益相殺は認められません。(裁判例:最判平成8.2.23)
雇用保険法に基づく給付 損益相殺の対象にはなりません。
生命保険・傷害保険からの保険金 損益相殺の対象にはなりません。
独立行政法人自動車事故対策機構からの介護料 被害者家族の負担軽減を目的とする見舞金としての性格を有することから、損益相殺の対象にはなりません。
香典・見舞金 相当程度の金額を超えない限り、損益相殺の対象にはなりません。
自損事故保険 損益相殺の対象にはなりません。
搭乗者傷害保険 損益相殺の対象にはなりません。
税金 税法上、交通事故による損害賠償金の受領は、非課税所得とされていますが、損害賠償額から租税相当額を控除しないとするのが、裁判例の立場です。

keyboard_arrow_up

0444555193 問い合わせバナー LINE相談